過払い金返還訴訟におけるサラ金業者の反論2−消滅時効の援用
過払い金返還訴訟では、みなし弁済、悪意の受益者等は、最高裁において判決があり、判例として確定しているのでもう争点にはなりません。現在の争点で最も大きいのが、この時効の問題です。過払い金の時効(消滅時効)は10年です。取引が絶え間なく続いている場合は、取引開始が何年前だろうが取引終了が10年以内であれば、時効の問題は争点になりません。しかし、時効の10年以上前に取引が終了している場合の過払い金返還においてサラ金業者は当然時効の適用(援用)を主張します。また、取引終了が10年未満でも10年以上前に一旦完済がある場合、完済前の取引について時効を主張してきます。これが認められると時効の成立した取引はすべてゼロになるので消滅時効の主張に対する反論は、過払い金訴訟においては非常に重要になります。
現在係争中の訴訟で、取引期間が平成3年から現在(平成20年)までの取引において、引直計算をすると100万を超える過払い金が発生しました。しかし、途中平成8年から1年10ヶ月完済による取引中断があり、サラ金業者は、平成8年以前の取引を時効として認めず、それ以降の過払い金である30万円弱の支払いによる和解を求めてきました。このように時効は、何としても認められるべきではなく、丁寧に反論しなければなりません。
ここでは、時効に対する反論として、井上元弁護士と河野聡弁護士の論文を掲載します。
過払金返還請求の実務 井上元弁護士
過払金返還請求権の消滅時効
過払金返還請求権の消滅時効の期間は、最一小判昭和五五年一月
二四日(民集三四巻一号六一頁)で民事消減時効の期間である一○
年であると判断されました。
現在問題になっているのは、過払いとなった後にまた借入れがあ
る場合、途中で発生した過払金返還請求権が消滅時効にかかるのか
ということです。この点、一連の貸付けだと認められる場合、過払
金は新規貸付けに充当されるのだという基本的な流れがありますか
ら、過払金を新規貸付金に充当していきますと、最後に発生した過
払金が一O年の消滅時効にかかっているということはあまりありま
せんから、一連の貸付けであると認められる限りは消減時効の問題
はそんなに生じません。
その他、貸金業者が新たな貸付けを行ったということは過去の過
払金返還債務を承認したとか、あるいは新規貸付けの時点で時効が
中断しているという裁判例も現れています。必要な場合はこれらの
裁判例を調査されればいいと思います。
一つ注目しておきたいのは、大阪高判平成一七年一月二八日(兵
庫県弁護士会ホームページ)です。これは、貸金業者は過払状態に
なった後も債務者に対してなお債務が残っているとして請求し続け
ており、貸付け後の長期にわたる支払いは貸金業者が積極的に容認
してきたものと推認されるから、消滅時刻の完成は大部分が貸金業
者の対応によりもたらされたものであって、消滅時効を援用するこ
とは信義則に反し許されないとしたものです。
過払金返還請求をめぐる実務上の諸問題 河野聡弁護士
時効の起算点
1 問題点
時効論については、前述した取引中断の際の充当の問題と合わせて論じられ
ることも多いのですが、取引継続中であっても、過払い金が発生した都度消滅
時効が進行すると解する下級審判例もあり、必ずしも取引中断の問題と併せて
論じることのできる問題ではありません。
問題は、利息制限法に基づく引き直し計算によって、過払い金が発生してい
るとしても、ほとんどの多重債務者は取引継続中にはそのことを知らず、また
利息制限法に基づく引き直し計算を行う知識も有していないために、現実には
請求することができない状態にあるということです。
2 時効の起算点についての最近の判例からの検討
この点、時効の起算点を「権利を行使することを得る時」からと定める民法
一六六条一項の解釈については、一般に、法律上の障害が無くなった時をさし、
単なる事実上の障害があるに過ぎない場合は時効の進行は妨げられないとされ
ています。ですから、貸金業者は、債務者が法律を知らないからといって、時
効の進行は妨げられないと主張するのです。
しかし、最判平成一五年一二月一一日民集五七巻一一号二一九六頁は、「生
命保険契約に係る保険約款が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の
消滅時効の起算点とする旨の定めは、当時の客観的状況等に照らし、上記死亡
の時からの保険金請求権の行使が現実に期待することができないような特段の
事情が存する場合には、その権利行使が現実に期待することができるようにな
った時以降において上記消滅時効が進行する趣旨と解すべきである」とし、消
息不明の者が三年以上経過してから死体で発見された場合に、死体が発見され
るまでは保険金請求権の時効は進行しないと判示して、「権利行使が現実に期
待することができないような特段の事情が存する場合には、その権利行使が現
実に期待することができるようになった時から消滅時効が進行する」という法
理を確立しました。そして、その後の下級審判決も、これに沿った判断をして
います。最近新聞で報じられた、新生児の時に取り違えられたことが四六才の
時に分かった男性による病院に対する債務不履行に基づく損害賠償請求の起算
点を血液型判定で親子でないことが分かった時点であるとした東京高判平成一
八年一〇月一二日判決(判例集未搭載)なども、この流れに沿うものと言えま
す。
ところで、貸金業者の利息制限法違反の取引については、前述の、シティズ
に関する最判平成一八年一月一三日判決及び最判平成一八年一月一九日判決に
おいて、貸金業者と取引する顧客は、支払継続中、約定金額を支払わない限り
期限の利益を喪失し、一括支払と約定遅延損害金の支払いの制裁があるものと
解される期限の利益喪失特約による誤解が存在し、これらの規定によって事実
上の強制を受けて支払を余儀なくされているとの見解から、支払の任意性が否
定されているのですが、この最判の立場からすれば、利息制限法違反の貸金業
者の顧客は、期限の利益喪失特約による支払義務に関する誤解に基づく事実上
の強制によって支払を継続しているといえるのですから、上記最判平成一五年
一二月一一日判決の法理に従えば、利息制限法引き直しによる過払い金請求の
「権利行使が現実に期待することができないような特段の事情が存する場合」
に当たると解することができるのです。
ですから、利息制限法違反の貸金業者の顧客が、「権利行使が現実に期待す
ることができるようになった時」というのは、期限の利益喪失特約による支払
義務に関する誤解に基づく事実上の強制による支払の継続が止んだ時、すなわ
ち、貸金業者に対して取引履歴開示請求がなされた時と解するのが、最高裁判
例の趣旨に最も沿うと考えられるのです。
過払金返還請求の現状と残された問題点 瀧康暢弁護士
過払金債権の消滅時効
1 問題の所在
過払金・不当利得返還請求の時効が一○年ということは、最高裁
判決で確定しています。
毎月の小口の返済金すなわち過払金債権が、それぞれ独立して債権
として存在してゆくと考えると一○年以上前に発生した過払金につ
いてはすべて時効で消滅しているのではないかという疑問が一応生
じます。
2 判例
素直な考え方は、発生した過払金はそのまま存続するのでなく、
次の借入金に充当されて、消滅してゆく。その結果、一O年前に発
生した過払金債権は、一O年の時間の経過を待つことなく、借入れ
によって次々と弁済充当され消滅してゆくので、時効消減の対象と
なる過払金債権がそもそも存在せず、消滅時効の問題は生じないと
いうものでしょう。
仮に、小口の過払金債権が別個独立して存在し、一○年経過する
毎に個別に時効消滅すると考えた場合、毎月の返済額に相当する一
二○個以上の過払金債権が並列して残存し、一方で借入金債務が蓄
積してゆくという非常識な結果となります。借り手、貸し手のいず
れの当事者の合理的意思とも大きくかけ離れています。
例えば、神戸地裁平成一七年:月七日判決では、過払金返還請
求債権を一体ととらえて、「両者が対等額で消滅することはなく併
存するとの考え方に立つべきでなく、両者は当然に充当関係に立
ち、新たな貸付けとして交付された金員は不当利得債務に充当さ
れ」ると判断しています。
さらにこの判決は、不当利得返還請求権は、上記一連の取引が終
了した時点において確定し、権利行使が可能になると判断し、その
時点から時効の進行を開始すると述べています。この考えによりま
すと、消滅時効が進行する実際の時期としては、弁護士が介入通知
を出し債務者が返済を止めて取引を終了した時点で過払債権の金額
が確定して権利行使が可能になる。そこから一O年経過しなければ
過払金は消滅時効にかからないと判示しているわけです(前掲Q&
A(第二版)一七七、一八三頁参照。CD-ROM収録)。
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